月刊グローバル経営5月号「現地報告-ブラジル経済最新情報」-平田藤義事務局長

   この論文は去る4月、社団法人 日本在外企業協会(日外協)の「月刊グローバル経営」5月号(6頁)に寄稿した字数削減前の生原稿(部分修正は青文字)です。時代を読むビジネスマンにとっては寄稿から3ヶ月が経過、ニュース性は低いがご参考に供します。

 

現地報告―ブラジル経済最新情勢


ブラジル経済の最近の情勢と市場の魅力

   かつて未来の大国、眠れる巨人、永遠の大国、と揶揄されたブラジル、しかし「世界の命運を決定する」魅惑の大国、出番の大国として今注目を集めている。
   BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として騒がれた当時は実質的に世界の目はR I Csに集中、Bの存在感は相対的に低かったが、世界経済の好調さに支えられ、また特に著しい中国の台頭により資源やエネルギーの価格が高騰、幸運なブラジルの出番がやって来たからだ。
   1995年、フェルナンド・エンリッケ・カルドーゾ(以下FHC)政権の誕生で猛威を振るったハイパーインフレは沈静した。財政規律が整い金融機関の再編・統合により秩序ある制度化が実現した中で、民営化も進み、その基本スタンスはそのままルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ(以下ルーラ)政権に引き継がれ、さらに堅固になった。

債権国になったブラジル

   3月25日のエスタード紙は米国発金融危機の最中、中銀が発表した「188億ドルの債権国ブラジル」を報じた。海外に保有する個人のクレジットや銀行資産の合計が約239億ドルあり、現在の外貨準備高1930億ドルに加えると2169億ドル、債務額の1981億ドルを差引けば188億ドルになる計算である。
   FHC 前政権の財政規律、変動相場制、インフレ・コントロールが確実に堅持され、マクロ経済政策の成果の上に世界経済の流動性の高まりを利用、IMFへの前倒し返済があったほか、特に昨年から政策的に増強した外貨準備高による歴史的な快挙と言えそうだ。
   コンサルタント会社MBアソシーアドスの経済学者セルジオ・ヴァーレは「ブラジル経済の歴史はドル不足の歴史」そのものだったと回顧した。従来、国際金融危機が発生する度に債務不履行の疑いがあったために、外貨の流出に追われた時代があった。ブラジルの通貨は下落、インフレが暴走、中銀は政策誘導金利を上げる術しかなかったが、結果として景気が後退、「鶏の飛行」現象(飛び立ったと思ったら、すぐに落ちていく)を繰り返していたからである。(3月12日エザメ誌)

直接投資、昨年に引続き順調

   昨年の海外からの直接投資は過去最高の346億ドルであった。今年は世界経済の減速を予想して200億~250億ドルとされていたが、中銀のアウタミール・ローペス経済担当局長は1月から2月の直接投資実績をベースに早々320億ドルを予測している。投資実績では全体の57.2%がサービス部門に集中、そのうち金融サービスに19.4%、工業部門の中では鉄鋼関連が最も大きく13.9%を占めている。
   全国工業連盟(CNI)によれば2008年度の一般消費の伸び率は昨年実績の6.5%を上回る7.5%と予測している。今年2ヶ月間の工業生産の伸び率(季節調整済)は、前年同期比9.2%の増加を記録したが資本財生産が5.3%伸び、引き続き投資意欲は旺盛だ。工業部門12.8%、農業66.5%、電力18.5%、運輸35.7%といずれも顕著な伸びを示している。供給が需要に追いつかないとする中銀2の懸念は1~2月の統計値を見る限りまだ表面化していない。(4月2日、エスタード紙の論評)

レアル高で輸入急増、輸出は鈍化傾向の中、貿易相手先多様化が進む

   昨年のブラジルの貿易黒字は400億ドル、今年は250億ドル~300億ドルまで減少すると予想されている。特に米国のサブプライム問題に端を発し対米貿易が減速、また継続するレアル高でブラジル工業製品の価格競争力が落ちてきているが、中国やインドの旺盛な需要でブラジルの主要輸出品の鉄鉱石をはじめとする天然資源や農業コモデティへの旺盛な需要および価格は堅調に推移すると見込まれている。
   中銀は1~2月の54%に及ぶ顕著な輸入増に驚きを隠さず修正の手を加えたが2008年の輸出予想を1720億ドルから1820億ドル(07年1606億5千万ドル/06年比117%)、輸入を1440億ドルから1550億ドル(同1206億1千万ドル/132%)、収支黒字を270億ドル(同400億ドル/86%)とした。今のところ年初予測のターゲット内に納まっている。

   ブラジルからの主要輸出品目は鉄鉱石、大豆や鶏肉など思いがちだが、航空機47億ドル、乗用車も47億ドル、自動車部品32億ドル等に代表される工業製品が半分以上を占め粗糖、セルロースや鉄鋼半製品などを加えると約7割となる。 一次産品の割合は3割に過ぎない。一方、輸入は原材料/中間財が約半分を占め、資本財が2割、以下燃料/潤滑油、消費財の順となっている。
  07年は06年同様、輸入の伸びが輸出の伸びを顕著に上回った結果、貿易黒字が11年振りに前年を下回った。一次産品の輸出は成長しているが、レアル高の影響で輸出全体のペースが低下傾向にある。

   近年、ブラジルの輸出入の最も大きな特徴は貿易相手先の多様化が進んだ事である。かつては米国への依存度は3割近くあったが現在は15%に過ぎない。もともと米国とはWTO交渉やドーハラウンドにおいて農産品の補助金問題で決裂を繰り返して来たが、苦肉の多様化政策が幸いし米国経済の影響を受けにくい体質になっている。
   近隣のメルコスル(南米南部共同市場)とりわけアルゼンチン、アジアの巨人化する中国をはじめ伝統的なEU諸国が主要な相手国だが、アフリカ諸国にも分散化が見られる。残念ながら、対日本は僅か対中国の半分以下にとどまっている。

 

 

◆ 一次産品:鉄鉱石(106 億㌦、+18.0%)、原油(89 億㌦、+29.2%)、大豆(67 億㌦、+18.5%)、鶏肉(42 億㌦、+44.3%)等
◆ 半製品:粗糖(31 億㌦、+▲20.5%)、セルロース(30 億㌦、+21.5%)、鉄鋼半製品(23 億㌦、+2.7%)等
◆ 工業製品:航空機(47 億㌦、+45.6%)、乗用車(47 億㌦、+1.2%)、自動車部品(32 億ドル、+7.9%) 等
括弧内:輸出額、伸び率(全て前年比)

 

 


ブラジルの主要商品別輸入

◆ 資本財 農業機械用部品・付属品、工業用機械が前年比2倍以上
~企業投資の拡大
◆ 消費財 家庭用品、乗用自動車が前年比60%以上の伸び
~中間層の拡大
参考)07年輸入車販売台数:22万4175台(全体の9%) 括弧内:輸出額、伸び率(全て前年比)

 

 

経常収支の赤字が拡大

   3月24日、中銀は急増する輸入を前に貿易収支黒字を300億ドルから270億ドルに下方修正、世界金融危機の恐れから、今年の貿易収支並びにサービス収支の経常収支の赤字予想を35億ドルから120億ドルに拡大修正した。 国内経済が引続き好調なため海外からの直接投資予想は280億ドルから320億ドルに上方修正する一方、海外からの株や債券などの証券投資は金融市場の先行き不透明感を嫌疑し大半のブラジル企業が新規株式公開(IPO)を取止めた理由により、昨年末予想260億ドルを120億ドルに下方修正した。
   また連邦政府は3 月17 日から海外投資家に対して長期投資を促すために、確定金利付国債購入に1.5%の金融取引税(IOF)を課した影響で証券投資減少に繋がるとしている。米国在住ブラジル人からの留守家族への送金はリッセッションや過剰なドル安のため、居住国で預金する傾向もあり4億ドル減少、全世界の海外在住ブラジル人の送金額は38億ドルにまで落込むと予想している。 (3月25 日付けエスタード紙)
   経常収支赤字の拡大と貿易黒字の縮小が今後の重要な難題と言えるかも知れない。02年以来の赤字転落に陥る中で注視すべき要素ではあるが「ブラジルのような国が小規模な赤字であるのは健康な証拠」と元中銀総裁のアルミニオ・フラガは、今の所あまり気に留めてない様子である。 例え赤字がさらに増えるような状況にでもなれば、変動相場制が維持される限り、市場においては為替調整機能が働き再びバランスするからと至って楽観的だ。
   また現在の経常収支の赤字拡大は投資の流入によりファイナンスされる傾向が強く、過去に起きた対外債務によるものと違い全く性質が異なり、外資による貯蓄の流入と捉えるべきである。「ブラジルは、依然として国内貯蓄が低い。むしろ歓迎すべきだ。これが対外債務による赤字なら、まさに赤信号になるところであった」とフラガは冷静に語っている。(3月12日エザメ誌)

国内消費をリードする中流層

   国内消費の面から社会構造に異変が起こりつつある。ブラジルの社会構造は一握りの超富裕層A1と富裕層A2を合わせた高所得者層であるAクラス、中流の上位にランクされるBクラス、中流であるCクラス、低所得者層に属するDクラスと最下層Eの5大別に分類できる。
   フランスの大手銀行 BNP Paribas グループの消費者金融会社 Cetelem はフランス系の市場調査専門会社 Ipsos に調査を委託、05年から07年までの消費構造を分析した。(無作為に選んだ1500世帯を調査)
   07年には中流と言われるCクラスの購買力が3650億レアルに達し総額1 兆4 千億レアルの25%を占めるに至り、07年のCクラスの人口は昨年の36%から46%に増え8千628万人となった。A/Bクラスが昨年比3%減り(18%から15%)、またD/Eクラスに至っては7%も減った(46%から39%)結果である。(3月30日エスタード紙)
   高所得者層からの脱落に比べD/Eクラスから7%がCクラスに上がり、ルーラ政権の念願の課題であった社会格差の是正が現実になった事は特筆すべき事である。 Cクラスの1世帯あたりの平均月額収入は1062レアル(07年実績値)、ブラジル地理統計院(IBGE)が消費構造から割り出した購買力はA1/A2クラスがそれぞれ802/2608億レアル、B1/B2クラスは各々3156/2869億レアルである。 Cクラスの購買力が他のクラスを凌駕、Cクラスが消費市場を左右する劇的な変化である。
   昨年のGDPは消費と投資が牽引役となり成長率5.4%を達成(06年のGDP総額:2兆3,330億レアル、07年:2兆5,990億レアル )04年の5.7%に次ぐ記録である。昨年第3四半期に消費/投資は加速的に激増、それぞれ6.5%/13.4%増で年を締めくくった。
   自動車の昨年の国内販売台数は前年比28%増の246万台と極めて好調であった。高級車を中心に輸入車も顕著な伸びを示したが、国産リッターカーの販売比率は01年以降漸減傾向にある。近年は55%前後で安定、このカテゴリーでは106万台程度の販売となっている。72回から100回に及ぶ月賦販売が功を奏したのであるが、リッターカーの漸減傾向は上位のCクラス層がより上位車種を求める増加と反相関がありそうだ。
   建設業界の動向を知る上でセメントの販売量は一つの指標となるが、年々増加傾向にあり昨年度は前年比2桁増になる勢いだ。サンパウロ市街地の不動産販売件数も、昨年の10月までの統計で前年比61.5%も伸び、また郊外の住宅販売件数も顕著なため、ブラジル発のサブプライムにならないか憂慮する声も聞こえて来るが、ブラジルのGDPに占めるクレジット比率は極めて低く(35%)その心配は今のところ考えにくい。 (3月26日の会議所経済速報:マレーシア、タイ:GDP比80%、チリ:50%、ドイツ、英国、日本:100%以上)
   米国のサブプライム問題で起こっている証券化商品の資産価値下落の波及もブラジルの金融・証券業界からは今のところ聞こえてこない。実質金利が世界一高い国ブラジルでは、国民には借金地獄の苦い経験があるほか、貸し出す方にも不良債権の回収にハイパーインフレ時代に培った生きたノーハウがあるからだ。

食糧危機を救える国、ブラジルのポテンシャル

   ブラジルの国土面積は世界第5位、851.2万平方キロメートルで日本の約23倍だ。世界人口が60億人を超え食糧危機が懸念される中、温暖な気候、豊富な水資源、肥沃な土地に恵まれ、ますます食料基地としての地位を築きつつある。現在の耕地面積は6200万ヘクタール、さらに牧草地として使用中の約2億2000万ヘクタールが別に存在し、短期転用可能な未耕地面積は9000万ヘクタールに及び、日本の耕地面積500万ヘクタールの18倍である。 穀物類だけの生産に限れば90/91年度5千8百万トン(面積3790万ヘクタール)から06/07年度に1億3千百万トン(4620万ヘクタール)に増えた。この間の生産性は186%向上した。 (出所:CONAB 農務省アグリビジネス国際関係局08年度出版冊子)
   新たに必要とする農産物の生産に莫大な栽培面積を有し、世界が警戒するアマゾン熱帯雨林の伐採で開発する必要性は全く無い。下表の様な農産物生産では世界の供給国として益々重要性が高まっている。

 

 

エタノール

   石油の代替燃料としてのエタノールの自動車用燃料用途に注目が集まっているが、世界最大の砂糖キビ生産国であるブラジルは、トウモロコシから燃料アルコールを生産する米国と、アルコール生産の世界トップの座を競っている。07年3月米国のGeorge W. Bush大統領の突然のブラジル訪問は、化石燃料が17年までに20%減少することを踏まえ、今後10年後の年間需要1320億リットルの供給手当てを見込んでの事であった。
   現在の全世界エタノール生産量400 億リットルの3倍を上回る需要となるが、現在、ブラジルは160億リットルを生産、アメリカのエタノール生産コスト0.30ドル/リットルとヨーロッパ連合の0.58ドル/リットルに比べて、低コストの0.20ドル/リットルであり、国土も今後の需要増に対応できる十分な耕作面積を有している。

豊富な鉱物資源と海底大油田次々に発見

   鉄鉱石をはじめ豊富な鉱物資源に恵まれ、鉄鉱石の埋蔵量は410億トンで世界第一位、錫鉱は中国に次ぎ、第2位の250万トンである。ニオブは世界の埋蔵量の96.4%、タンタル46.5%、グラファイト28.3%、錫12.4%の他に、豊富なマンガン、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、ウラン鉱が地下に眠っている。
   昨年、11月リオ・サントス沖ツピー大油田(確認埋蔵量50~80億バーレル)の発見に続きその東部37Km 地点の鉱区BM-S-24で、大量の天然ガスを含む大油田が発見され、ジュピター油田と命名された。 ジュピター油田は深度5100メートルの岩塩下に120mの油田層にわたっており、カンポス沖のマーリン大油田と同様の油田層を有している。 ジュピター油田はツピー油田と同規模の埋蔵量と推定されているが、リオ・サントス沖の石油鉱区全体では巨大な推定埋蔵量が見込まれている。 (1月22日エスタード紙)
  それからまだ5ヶ月位しか経たない4月15日、国家原油庁(ANP)のアロウド・リマ理事がFGV大主催のセミナーで、サントス沖のポン・デ・アスーカールとして知られる開発鉱区にはツピーの5倍に相当する油田層の存在を示唆した。確認されれば過去最大規模の発見となり世界3 大油田に匹敵、330億バーレルの推定埋蔵量の報せにペトロブラス株は7%急騰した。未確認情報であるが市場は公式情報の確認を急いでいる。(4月15日エスタード紙)

 

進出企業の動向

◆ 創立50周年を迎え躍進するトヨタ
   今年1月、ブラジルトヨタは創立50周年を迎えた。創業当時 バンデランテを数千台の小規模で生産・販売していたときと比べ、昨年は約72千台を販売する規模にまで成長を成し遂げた(約30倍の規模に成長)。ブラジルでカローラの現地生産が始まったのが’98年であり、インダイアツーバ(IDT)工場も生産開始10年の節目となる。
   今、ブラジルの自動車市場は活況を呈している。 昨年の自動車市場は約243万台となり、一昨年の193万台から28%も拡大、経済が安定し個人の所得が増えると同時に金利が下がり、クレジットの利用拡大が自動車の需要拡大には大きく貢献しているからだ。
   また、現地通貨のレアルがUS$に対して益々強くなり輸出における採算が悪化していることで、各メーカーが国内の需要を喚起するようキャンペーンの展開や供給を増やしていることも大きな要因である。北米や日本を含め一般的にはサブプライムローンの影響で景気の後退が言われているが、ここブラジルにおける影響は今のところ軽微で’08年も市場は拡大すると見込んでいる。
   トヨタは、今年3月に生産能力の増強も含め総額で約270億円を投じてカローラをフルモデルチェンジし、10代目となる新型モデルを導入、急速な市場拡大と競合他車との競合の激化のなか、新型カローラの導入で再びシェアNo.1を目指して生産・販売一丸となって取り組んでいる。

◆ 事業経営に軸足をシフトする三井物産
   ブラジル三井物産は、従前よりブラジルの持つ高いポテンシャルに注目し、資源・エネルギー、農業、インフラ、国内マーケットという4つの重点分野を中心に、ヴァーレへの資本参加、ペトロブラスとのガス配給事業、マルチグレインとの農業生産事業、貨車レンタル事業、シャープ製品の販売事業等々、活発な投資・事業展開を行ってきている。
   また、槍田松瑩社長が経団連の日伯経済委員長や日伯交流年の日本側実行委員長を務め両国間の交流促進に陣頭指揮をとっていることもあり、社業と並行して、こうした国対国の関係を補完するハイレベルのイニシアチブにも積極的に取り組んでいる。更に、CSRの観点より在日ブラジル人子弟の為の教育支援プロジェクトにも継続して取り組んでいる。人と社会と共に歩む物産は今後ともこうした取り組みを重層的に強化して行く構えである。

◆ 厳しい環境下、安価・安全・高品質の製品に取り組む味の素インテルアメリカーナ
   原油価格の高騰に始まり、主原料の砂糖価格の高騰、アンモニア価格の高騰等などにより、生産コストは上昇が著しい。ブラジルの工場から北米・アジア・欧州のグループ各社への製品供給をしているが、コスト上昇を自助努力で吸収することは困難であり、輸出価格の改定を余儀なくされている。
   他方、ブラジル国内向け事業では、好調な経済状況と旺盛な個人消費を背景に、工業用販売・消費者向け販売ともに好調である。新しく導入した国内レストラン向けの新製品の販売も順調である。
   米国経済の動向・原料価格・為替と不安定要因が多く、不透明な状況が続くと予想される。しかし、ブラジルが主原料調達で優位な状況は変わらない。今後も、ブラジルの食生活の向上とグループ各社への供給拠点の役割を果たすため、安価・安全・高品質の製品を目指した取組みを続けている。

◆ 環境ビジネスに注目するブラジル三井住友銀行
  ブラジルはCDM(クリーン開発メカニズム)の世界の中で中国、インドに次ぐ「カーボンクレジット」の供給国であり、一方で日本は最大の需要国と位置付けられている。
   今年で開設50周年を迎えるブラジル三井住友銀行では2005年の段階から、この「カーボンクレジット取引」について金融機関が進めるべきCSR(企業の社会的責任)の見地と日伯双方の一層の関係強化、また地球全体の持続可能な発展に貢献する新しい銀行取引の可能性と見做し、「カーボンクレジット」業務の展開を試みてきた。
   元々、銀行が持つ幅広いネットワークと信用調査能力を活かし、相対的に中小規模となるブラジルのCDM プロジェクト情報を収集し、日本の需要者へ繋げるというビジネスモデルで、2006年後半にはブラジルの10数件のプロジェクト(約150 万t)を取り纏めた上、日本の大手電力会社へ紹介した。
  この取引はそれまで、中国・インドを主体に見ていた日本の需要者に対してブラジルのポテンシャルを証明しただけではなく、それまで国際市場にアクセスが出来なかったブラジルの中小規模のCDMプロジェクトを日本の銀行がアクセスさせたという点で高い評価を得た。
  さらにこの取引はブラジル・日本の関係者だけでなく、英国フィナンシャルタイムスとIFC(国際金融公社)が主催するサステナブル・バンキング・アワードのカーボンクレジット部門において、持続可能な発展に寄与したディールとして優秀賞(Runner-up)を受賞するに到った。
   ブラジル三井住友銀行は邦銀の中でいち早く「地球環境部」を創設。また東京本店内にも「環境ソリューション室」を設置。邦銀の中でいち早く、京都議定書を背景にした「環境ビジネス」を展開する体制を整え、京都議定書の第一約束期間(2008年~2012年)の目標達成に貢献する仕組みを整えた。本日では東京、ロンドン、ニューヨーク、シンガポールなど世界各地の拠点が連携し、日本の需要者へ1トンでも多くの「カーボンクレジット」を供給できる体制を敷いている。

◆ 世界的な鉄鋼再編成にチャレンジする新日鉄のブラジル戦略
   新日鉄は持分法適用会社であるウジミナス社とともに、同社の能力拡張を推進している。ブラジル・アルゼンチンを中心とする南米自動車生産の急速な拡大、防錆化の進展により、南米の自動車用亜鉛メッキ鋼板需要が急速に増大しており、ウジミナス社と新日鉄のJ/Vであるウニガル社にて、この需要に応えるべく、2010年末稼動を目指し製造ラインを増設する。
   エネルギー分野を中心とした需要増加に応えるべく、2010年央稼動を目指しイパチンガ製鉄所厚板工場の能力を増強する。また将来のハイ・ミドルグレード゙需要への対応のため、2011年4月稼動を目指しエネルギー向け高級鋼にも対応できる、最新鋭の熱延工場をクバトン製鉄所に建設する。
粗鋼生産能力の拡大のため、イパチンガ製鉄所の能力拡張および新規鉄源製鉄所の建設を予定している。新規鉄源製鉄所については、ウジミナス社が買収した鉄鉱山からの原料安定供給を受けるメリットも見込まれるクバトン製鉄所隣接地を主案として検討している。

◆ 住金の日仏合弁計画
   住友金属は、バローレック社と共に、2010年の稼動に向けミナスジェライス州に高炉一貫シームレス鋼管製造合弁会社の立ち上げを推進中。高炉には木炭が使用されエコフレンドリーな製鉄所となる。住友金属は製造される60 万トンのシームレス鋼管のうち、30 万トンを販売。増加する高級シー
ムレス鋼管の需要に応えてゆく。住友商事も一部出資。

◆ 住友商事、ペトロブラスと共同運営
   住友商事は、ブラジル国営石油公社ペトロブラス社との間で、南西石油(沖縄の石油精製所)を共同運営することで合意し、2008年4月1日に新株主間協定書に調印した。住友商事はペトロブラスを東燃ゼネラルに代わる新たなパートナーとして迎え入れることで、精製事業を継続し、沖縄での雇用維持を図るため、約2年に亘り協議を継続した。ペトロブラスとしては、ブラジルから輸出されるエタノールの貯蔵基地としての利用の他、追加投資による設備の高度化により、ブラジル産重質油の精製を計画している。

◆ 新規参入4社が工場建設、激化する2輪市場
   94年レアルプランの導入後の物価安定により、順調に成長を続けてきていた二輪市場であるが、ここ数年間は、金利の低下とクレジット販売の普及により、その成長は加速している。2007年の販売台数は前年比33%増の169万台に至り、2008年第一四半期は、やや成長速度は減速したものの、前年同期比19%増の43万台を超える販売となっている。また、急激に購買力をつけてきている大衆層への好調な需要を背景に、多くのブランドが新規参入をしており、ここ4年間で7社から22社が競合する環境となった。更には、以前からマナウスで生産活動をする7社が生産能力の拡大を進める一方で、2007年には中国メーカーとの提携にて2社が生産を開始し、現在も、新たに4社が工場建設を計画中であり、競合は激化する方向にある。

 

 

加速する、出番のブラジル

◆ 拡大続ける消費市場と投資意欲
   外国からの直接投資は連続記録を更新、グローバルな一大消費市場として急成長、途上国の中では世界屈指の株式市場が出来上がっている。景気旺盛、24四半期連続の成長を記録、昨年度の雇用創出は過去40年間で最大の実績となっている。
   エザメ(EXAME)誌がブラジルで事業を展開している多国籍企業の社長136人に独自のアンケートを行った結果、本社の対ブラジル・イメージが良い方向に変わってきていることが明らかになった。回答者の大半は、ブラジルの経済が5 年前に比較し「ずっと良くなった」と答えている。また9割近くは、現地法人向け投資はその期間中に著しく増加し、将来さらに国内の事業を拡張すると答えている。
   GM、フィアットやプジョーなどの自動車メーカーも新規プラントを相次いで発表、2012年まで、ブラジルの年間自動車組立台数は500万台にもなると予測している。また、世界第5 位のコンピューター生産国としての実績も、大手IT会社にとっては魅力的である。マイクロソフトにとってブラジルは最優先地域の一つと位置づけている。

 

多国籍企業のトップが語るブラジル観
   ジーメンスの米州会長 Peter Y. Solmssen 「10年間で、ブラジルは市場としての地域性から脱皮、将来性のあるグローバルプレーヤーになった。現在、進行中の経済改革も景気を最大限にさせるために貢献している。当国での売り上げは2003年から2006年で2倍に成長した。2010年までに更に2倍になることを期待している」
   Bayer CropScience社長 Friedrich Berschauer「ブラジルの国際的な重要性は日増しに高まっている。ブラジルの農薬市場は15年間で年平均10%伸びてきた。当グループにとって最も重要な3大市場の1つだ」
   Bunge本社会長 Alberto Weisser 「国際分野でこれからますます重要になる国だ。持続的な発展軌道に乗ることは間違いない。Bungeの国際投資枠、約13億ドルの半分以上はブラジルで行うつもりだ。ただし、投資を阻害する劣悪なブロクラシーは減らして貰わねばならない。」
   Microsoft本社会長 Steve Ballmer 「ブラジルは、マイクロソフトが成長していく上で最優先地域の一つだ。主な理由は、豊富な人口、安定した経済、そしてコンピューター市場形成に必要な成長基盤がある。経済成長が旺盛なだけではなく、技術的な分野においても発展が著しく、インフラ面でも近代化が進んでいる。まさに完璧な方程式ですよ!」
   Roche製薬本社のグローバル会長 William Burns 「ブラジルの人口規模と、現在の経済成長率は、先進国の足踏み状態と比べるととても魅力的だ。パテントの保護や登録に要する期間短縮など改善の余地はまだまだ多いが、ブラジルを信頼しリオ・デ・ジャネイロ工場に7千万ドルの新規設備投資行っているのはその具体的な証だ。」

 

代表的な業種別の過去5年間における消費市場の規模と成長率および消費の世界順位を下表に示す。

 

 

◆ 中銀総裁の舵取り手腕
   ブラジル中央銀行の管理項目は大きく分け(Ⅰ)通貨政策およびインフレ、(Ⅱ)財政政策、(Ⅲ)対外部門、(Ⅳ)融資・貸付、(Ⅳ)景気の5つに大別できる。各々の項目や統計グラフは会議所ホーム頁に掲載してあるので説明は省略するが、透明な形で公表する中銀の姿勢は素晴らしく立派だ。
   今年1月まで過去5年間に筆者は5回ほど総裁と身近に話す機会があった。内3回は主要12カ国で構成する外国投資家グループ(GIE)の集まりで一切マスコミを入れず自由な討議ができる会合であり、また当会議所の昼食会には講師として快諾出席、最後は今年1月16日開催した日伯交流年記念経済シンポジュームにもメキシコで行われた会議の帰途、ガルーリョス国際空港から直行、講演して下さった時である。
   昨年4月のGIE会合(通常20名程度)において中銀総裁はパワーポイント(PPT)を駆使、上述5項目を丁寧に発表、その成果に圧倒され思わず貴閣下は経済分野においてノーベル受賞者に選ばれても全く不思議ではないですね!と心底賞賛した事があった。ブラジルの失われた80年代以来、内外の経済専門家が揃って経済政策に関する批判記事や中には処方箋に至るまで公開されてきたが、何れも結果は裏目に出て混乱の絶えない時代を経験したからである。
   金利政策においては、中国やインドの成長率をよそ目に開発志向型の議員や関係閣僚から圧力や非難の応酬を浴びても軽率な引下げに譲歩せず徹頭徹尾、持説の慣性インフレ論を展開、目標値内に納め、その手腕と実績は万人が認めるところである。依然として投資先を中国、インド、ロシア(RICs)にシフトしている日本の企業向けにこの発表資料を翻訳、当所のホームページ(HP)に是非、掲載させて下さいと軽い気持ちでお願いしたところ、即座にメールされてきたのには驚かされた。
   最近の中銀総裁エンリッケ・メイレーレス語録を拾ってみると「経済政策の最大のメリットは、過去の危機に見られた、自ら危機を作り出すメカニズムの連鎖を打破したことだ」、「あのパターンから開放されたために、経済は連続で24四半期、バランスを崩すことなく成長し続けている」、 「通貨と為替が安定したために、企業はグローバルに仕入先を求めるようになり、近代化を目指し設備投資を行い、競争力が一段と強化され、持続的な成長が達成可能になった」など、実績に裏打ちされた自信の程が伺える。

◆ 税制改革と投資環境整備を
   ブラジルの最大のリスクは現在の好機を自ら利用しないことだ。 短期的には好調だと前置きする元中銀理事、ABN Real Amro 銀行のチーフエコノミストのアレシャンドレ・シュワルツマンではあるが、「政府の支出は過去最大、更に増加し続ける一方で長期的に支えきれるものではない」と釘をさしている。
   連邦政府の支出の実質増加率は毎年7%にも昇り、当面は、税収入の増加によって吸収されているものの、これが10 年も続けば、対GDP の税負担率が現在の38%から50%に増加することになる。このような状況を逆転させるために、今自ら税制改革を断行しなければならない」と力説している。
また元中銀総裁のアルミニオ・フラガも、税制改革以外に喫緊とする課題はインフラ整備にまつわる各種規制の緩和・撤廃およびビジネス環境の改善であると指摘、これをなおざりにして一流の資本経済の仲間入りを夢見ることは極めて野望だと説いている。
   「ブラジルは世界銀行のビジネス環境ランキングにおいて121 位の最下位にあることを認識せよ!」、「まずはトップ30位内を目指すべきだ!そうすれば、経済活動が効率化され、さらに投資の増加が可能になるのだ」と結び、影響力のある財界人たちは政治家や政府に対し自己陶酔に陥らず抜本的な改革を促している。

歴史的な発展目前、出番の大国
   直面すべきハードルは高いが、これを怠れば、ようやくブラジルが享受しはじめたチャンスをみすみす逃がすことになる。正確な決断をとることによって、発展途上国が先進国のレベルに到達した実例は歴史が証明している。最近では韓国であり、現在はインドや中国が猛進、試みているところだ。当然ながら、これまでの全ての成功例には幾つかの違いもあったが、確かなことは、これからの一歩を選べる歴史的な唯一の機会を目の前にしていることだ。「未来の大国」にとって、「現在」がこれほど希望に満ち溢れたことは無かったが、「世界の命運を決定する」魅惑の大国、出番の大国としての果たすべき課題も多い。

(注記)表などを含め、部分的に08年3月12日のエザメ誌から抜粋

以上

 

平田藤義(ひらた・ふじよし)
1967年 KURASHIKIブラジル 電気・水・ボイラ担当主任
1973年~1997年 ROHMブラジル 生産管理課長/製造部長/工場副社長/社長
2002年~ ブラジル日本商工会議所 事務局長、
2003~5年、「現代ブラジル事典」編纂のブラジル側コーディネーター

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